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実車両部品を用いた小型化エア・サスペンション教材の製作

徳島工業短期大学 花野 裕二

KeyWords:エア・サスペンション、レベリング・バルブ(LV)、小型化

1.まえがき

 大型車両整備実習におけるエア・サスペンション教育として実車を使用する場合、車両全体が大きく構造が複雑であるためシステムが理解しにくい。例えば、エア配管接続部においても配管が長くどことどう接続されているかを理解し難い。又、教科書記載の作動図においては記述が簡単すぎて却って理解しづらい面がある。本報では実車両使用部品を使いつつ、システムの理解に必要最小限度の構成で小型化した教材を作ることによって、構造及び作動が理解しやすいものを製作したので報告する。

2.システム概要

 通常大型車に多く使用されているエア・スプリングは、サスペンション型式や車両質量により少し異なる箇所もあるが、基本的な構造としてはエアを容器内に閉じ込めることで、その圧縮性を利用しバネ作用を得ている。又、ばね定数は空気圧力に比例するので、積荷の変化によらず固有振動数がほぼ一定になることや、レベリング・バルブ(以下LVと記述する)と組み合わせることで車高を一定に保ち、乗り心地を安定させている。

 図-1は実車両エア・サスペンションの配管図を示すものであるが、エア配管全体では多くの部品が組み込まれており、この状態で実車両による整備教育を考えた場合、エア・サスペンション機構は複雑であり又、車両サイズの面から見ても比較的大きいことから、システム全体を理解させる事が難しい。従って、本教材の製作にあたってはまず、システム全体を小型化させる事を前提に、教育上必須である部品のみを実車両部品より選択し、組み合わせることにした。

3.システム構成

 実車両部品を使用するにあたって最低限必要なものは何かを考えた場合、積荷荷重やホイールの上下運動に応じ変動するエア・スプリグ、エア・スプリング本体に負荷がかかった時にエアをコントロールできるLV、圧縮空気を蓄えるエア・タンク等の構成部品を用いる事が必要不可欠となる。又、エア・サスペンション機構の特徴である積荷重量の変化によるサスペンション上下動を再現する方法としては、エア・スプリング上に荷重に相当する重りを置く方法が考えられるが、質量が大きいこと、装置自体が大がかりとなることから、油圧プレスとコイル・スプリングを併用し、自在に荷重変化をコントロールできるものとした。配管の様子を図−2に示す。

図-2 システム配管

 本教材の外観を写真−1に示す。構成は荷重を増減させる為の油圧プレス(10t)、エア・スプリング、LV及びエア・タンクを組み合わせた構造とし、荷重の増減は油圧プレスの加圧ハンドル操作によって行うものとした。なお、エア・スプリングにはベローズ型とダイヤフラム型とがあるが、ここでは現在一般的に用いられているダイヤフラム型を採用した。


 油圧プレス機能は加圧状態でラム部を押し下げるものであり、逆に引き上げることは出来ないため、写真−2に示すように、自動車用コイル・スプリング(バネ定数120N/mm)を介存させた。



 コイル・スプリング取り付け部においては、加圧ハンドル換作によるシリンダ加圧時やレリーズハンドルでの減圧時に伸縮するコイル・スプリングの中心線のズレやスプリングの曲がり等による跳ね返りによる危険性があるため、プレス・ラム部の改良を行い、写真−2に示すようなガイド@をラム部に固定しコイル・スプリングをガイドAで挟み込む構造とし、作動時の安全性を図った。エア・スプリング上部はガイドAと固定させ、下部はテーブル上にボルトで固定した。又、エア配管はエア・タンクからLV及び、エア・スプリングまで実車同様の機構で連結し、作動時エア圧が確認できるゲージを取り付けた。
 エア・スプリング内の空気圧は実車両では一般に490kPa〜980kPaと設定されているが教育用小型化モデルということで、98kPa〜294kPaと低く設定し、コントロールをしやすくした。
 LV取り付け部を写真−3に示す。LV作動確認を容易に行う為、LVを装置の中央部に取り付け、エア圧力によるエア・スプリングのストローク変化は目盛(mm)で確認できるものとした。

4.システム作動確認

 写真-4、写真5は、LVの作動によるエア・スプリングへのエアの加減圧状態を表したものである。本システムに使用したエア・スプリング本体でのストロークはエア充てん状態において、伸長時では70mmになることから、中間位置である35mm地点を基準値となるようリンク・ロッドを水平にセットした。
 写真−4はエア・スプリングの加圧状態を示し、加圧されることによりエア・スプリングは上昇し、リンク・ロッドが水平より上がった状態を示す。



 写真−5はエア・スプリングが減圧されて下降した状態であり、リンク・ロッドが下がった状態を示す。写真−5の状態になるとLVが作動してエア・タンクからの高圧のエアがエア・スプリング内に流入し、リンク・ロッドが水平の位置になるまで内圧が上昇することが確認できた。同様に、写真-4の状態になると、LVがエア・スプリング内の空気を排出し、やはりリンク・ロッドが水平になるまで内圧が低下することが確認できた。



 また、加圧ハンドルによって荷重を増減した場合でも、同様にLVが作動し、リンク・レバーが水平位置に復帰することが確認できた。

5.実習での応用

 本学で実施している二級ディーゼルのための実技免除講習会において、本教材を使用した実習を行っている。実習では、エア・サスペンションの基本的な説明を行った後、本教材を使って荷重に対する圧力、変位などを測定し、エア・スプリングの荷重・変位特性の測定並びにLVの作動を体験的に習得させるようにしている。

 実習で使用している測定項目の一例を図-3に示す。


図−3 測定項目例

測定した結果をバネ定数として表したグラフの例を図−4に示す。


図−4 バネ定数の例

 このように、実際に測定した結果を学生自ら図に表すことにより、エア・スプリングの特性を実感することができ、エア・サスペンションの仕組みの理解も進む。実習に参加した学生に感想を聞いてみると、教科書の学習で頭では理解していたことが、実感として理解でき楽しい実習であったといった肯定的な意見が聞かれた。

結論

  1. 実車部品と油圧プレスによる組み合わせでシステム全体を小型化させ、エア・サスペンション機構の構造並びに作動を再現できる教材を作ることができた。
  2. 加圧ハンドル操作によりエア・スプリングにかかる荷重を自在にコントロールすることができ、それによるレベリング・バルブの働きを観察することができた。
  3. 圧力並びに変位を測定することができ、エア・スプリングの特性を測定することができた。
  4. 反面、エア流出で作動するエア・スプリングの動きをスケールにより読み取ったが、目盛りが小さかった為、多くの学生が同時に確認することが困難だった為、改良を要すると思われた。

あとがき

  • 今回製作したように、実車の部品を用い、且つ装置自体を簡略化・小型化した教材は、実車とも違いまたおもちゃとも違う、教材として優れた教育効果を出すことが分かった。
  • 今後同種の教材製作を進めてゆく重要性がわかった。
  • 荷重計及び、エア・スプリング変位量が読みやすいような機構を考え、より大勢の学生が同時に参加でき、教育効果の高いものに改良する必要があると感じた。
  • エア・スプリングには、今回採用したダイヤフラム型のほかベローズ型や各種の改良型がある。ラム部ガイドの改良により、多種のエア・スプリング特性が確認できるものに改良すれば、更に教材として活用の幅が広がることと思われる。

参考文献

1)カヤバ工業株式会社:自動車のサスペンション
2)宇野高明:車両運動性能とシャシメカニズム


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