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含酸素系燃料の性状と微粒子抑制機構に関する研究

北川 浩史  登坂 茂  藤原 康博  村山 正

The Effect of Oxygenated Fuel Properties on Mechanism of in hibitionin Particulate Matter.

Hiroshi Kitagawa Shigeru Tosaka Yasuhiro Fujiwara Tadashi Murayama

 It is reported that the particulate matter in exhaust gas is reduced when oxygenated agents are added to diesel fuel,but the inhibition mechanisms is not established.
 To explain this mechanism,We investigates the amounts of particulate formation and analyzes thermal cracking and condensation polymerization components with a fluid reaction tube apparatus and nitrogen atmosphere.As a result of experiment,it became clear that inhibition mechanism of fine graln Was different by fuel properties.

KeyWords:Fuel, Oxygenated Fuel,Diesel Fuel,/DEC,Diesel Exhaust ParticulatesJ

1.まえがき

 ディーゼル機関排出微粒子(PM)は,含酸素物質を混合した燃料を用いることで,大幅な低減が可能であると報告されているが(1)(2),その抑制特性,抑制機構は十分解明されてはいない.また,含酸素物質も性状によって分子構造,酸素含有率が異なるが,含酸素物質の性状と微粒子抑制特性,抑制機構の関連についても解明されていない.
 本研究室ではこれまでに燃料性状(炭素数,分子構造)によって微粒子の生成機構,生成特性が異なることを明らかにしている.(3)(4)したがって含酸素物質の混合により微粒子の低減を図るためには含酸素物質,ならびに燃料の性状と微粒子抑制機構,抑制特性の関連を解明することが重要と考えられる.
 燃料性状によって着火性,蒸留性状,粘度(噴霧特性)等が異なるため,実機では微粒子生成の重要因子である局所的な温度,濃度,滞留時間が異なり,微粒子の抑制機構を解明することは困難である.
 本研究では燃料性状,あるいは含酸素物質の性状にかかわらず,加熱温度,濃度,滞留時間を任意に制御可能な反応流動管装置を用い,同一条件で加熱した際の熱分解成分,重縮合成分などの分析,ならびに微粒子生成量の測定を行い,性状と微粒子の抑制特性,抑制機構の関連を解明することを目的としている

2.実験装置及び方法

 実験には試作した赤外線ゴールドイメージ炉を用いた.燃料,および窒素の流量を調整し,燃料濃度3%C,空間速度5000/hの一定とし,微粒子生成機構,生成特性の異なる燃料を対象に,それぞれDECの混合割合,あるいは加熱温度を変化させた際のPM生成量の測定,ならびにFID付きガスクロを用いて熱分解成分である低沸点炭化水素(LHC),重縮合成分である多環芳香族炭化水素(PAH)などの分析を行った.燃料には同一炭素数で微粒子生成機構,生成特性の異なる脂肪族鎖式炭化水素トへキセン:C6H12,脂肪族環式炭化水素シクロヘキサン:C6H12,ならびに芳香族炭化水素ベンゼン:C6H6を対象とした.また,含酸素物質はDEC:(C2H50H)2COを用いた.

3.実験結果及び考察

3.1. トへキセンの微粒子抑制機構

 図1は,加熱温度1100℃の一定でDECの混合割合を変化させた際のPM,SOFならびにDry−Sootの生成量を示したものである.図からPM生成量はDECの混合割合の増加と共に一旦増加し,20%以上になると急激に減少している.また,PM生成量が最大となる20%付近ではDry−Sootが大幅に増加しており,PM中のDry−Sootの割合も高くなっている.


Fig・1・Relationship between the DEC mlixing ratio and quantities of PM.(Fuel:1-Hexcene)


 図2は,DEC混合割合0%,30%におけるLHCの分析結果を比較して示したものである.

Fig.2.Chromatograms of the thermal decomposition of 1−Hexene


図からいずれも同様に,メタン,エチレン,アセチレンならびにベンゼンが明瞭なピークとして検出されていることが分かる.これはC−C結合の解離によりLHCが生成され,自由生成エネルギが小さく,熱的に安定な成分へと熱分解が進行し,継いで熱分解成分である不飽和のLHCからDiels−Alder反応を主たる経路としてベンゼンが生成されたものと考えられる.なお,DECを混合した場合には,メタン,エチレンのピークが明らかに大きくなり,アセチレン,ベンゼンのピークは幾分小さくなっていることから,DECの混合により熱分解が進行する一方,DECに含まれている酸素によってアセチレンの一部が酸化されて減少するためベンゼン環の生成量が抑制されたものと考えられる.


 図3は,DEC混合割合を変化させた場合のPAll成分の分析結
果を比較して示したものである.

Fig.3.Chromatograms of the PAH component analysis for 1−Hexcene


図から,DECの混合割合によって検出される成分のピークの大きさは明らかに異なっており,10%混合した場合には検出されるピークはいずれも大きくなり,30%になると全体に小さくなっていることが分かる.一方、いずれも1環のベンゼン,アルキルベンゼン類,ならびに2環〜4環のPAH成分が検出されており,熱分解成分である不飽和のLHCから生成されたベンゼンが直接重縮合多環化するとともに,ベンゼン環に熱分解成分が側鎖として付加し,アルキルベンゼン類が生成され,これらの側鎖の反応によってジベンジル,スチレンなどを介し多環化しPAHが生成されたものと言える.


 図4は,前述の分析結果から検出された主な成分を環数毎に分類し,そのトータルピーク面積と混合割合との関係を示したものである.図から,いずれの環数成分も混合割合10%で増加し,その後混合割合の増加とともに減少している.

Fig.4. Relationship between the DEC mixing ratio and total peak area of different benzene ring number


 PM,SOFの生成量は混合割合が20%で最大になるのに対し,PAHは10%で最大となる.このように,PMとPAH生成量が最大となる混合割合が異なるのは,混合割合の増加にともないガスクロでは測定困難な高沸点のPAH,Dry−Sootへと多環化が進行したことによると考えられる.なお,混合割合が20%以上になると,酸素量も増加するため酸化反応が進行して不飽和のアセチレンが酸化・減少することにより,ベンゼンの生成量が抑制され,ベンゼンの重縮合多環化によって生成されるP旭ならびにPMが抑制されたものと考えられる.


 以上の結果から,1−へキセンの場合は,DECを混合することで,熱分解が進行してLHCが増加するためにベンゼン環の生成が促進され,それらの多環化が進行してPAH,ひいては微粒子が増加したものと考えられる.一方,DECの混合割合がある程度以上になると,酸素量の増加に伴い酸化反応が進行するため不飽和のLHCが減少し,ベンゼン環の生成が抑制されるためPAH,PMが抑制されたものと考えられる.


 同様の実験をシクロヘキサンでも行ったが、1−へキセンと同様な微粒子抑制機構が確認された.

3.2.ベンゼンの微粒子抑制機構

 図5は,ベンゼンにDECを混合した場合の混合割合に対するPM,SOF,Dry−Sootの生成量を示したものである.図から,ベンゼンにDECを混合した場合には,混合割合の増加とともにPM,SOF,ならびにDry−Sootのいずれも減少していることが分かる.


Fig.5.Relationship betweenthe DEC mixing ratio and quantities of PM.(Fuel:1−Hexcene)


 図6は,DEC混合割合0%,30%におけるLHCの分析結果を比較して示したものである.図からDECを混合した場合には混合しない場合に比べて、明らかにLHCが増加していることが分かる.また、検出されるLHC成分としては、1−へキセン、シクロヘキサンとは異なり、エチレンが最も多いことから、これらLHCは混合したDECの熱分解によって生成されたものと考えられる。


Fig.6.Chromatograms of the thermaldecomposition of Benzene


 図7は,DEC混合割合0%,30%におけるPAH成分の分析結果を比較して示したものである.図からDECを混合した場合には1環のアルキルベンゼン類、ならびに2環〜3環のPAH成分が明らかに大きなピークとして検出されていることが分かる。この原因は、DECの熱分解によりLHCが生成され、これがベンゼン環に付加することでアルキルベンゼンが生成され、これらの側鎖の反応によって多環化したことによるものと考えられる。


Fig.7.Chromatograms of the PAH component analysis for Benzene


 図8は、前述の分析結果から、検出された主な成分を環数毎に分類し,そのトータルピーク面積とDECの混合割合との関係を示したものである.図から、混合割合の増加と共にいずれの環数の成分も増加していると言えるが、高沸点成分である3環、4環成分の増加傾向は小さく、4環成分はほとんど変化していないことが分かる。なお、検出されるPAH成分が増加するのにも係わらず、前述の図7に示されるように、SOFの生成量は減少しているのは、本実験における分析条件で検出できるPAH成分が4環程度であることから、DECを混合しない場合は測定困難な高沸点のPAH成分へ多環化が進行し、混合した場合には多環化が抑制されるために比較的環数の小さいPAH成分が多く検出されたものと考えられる。


Fig.8.Relationship between the DEC mixing ratio and total peak area of different benzene ring number(Fuel:Benzene)


 これらの結果から、DECの混合割合が増加するとPAHの生成量が増加して行くにもかかわらず微粒子が減少するのは、DECの熱分解により生成されたLHCがベンゼン環に側鎖として付加し、アルキルベンゼン類が生成され、それらを介して多環が進行することが、ベンゼン環が直接重縮合多環化し、ガスクロでは測定困難な高沸点のP旭(SOF)成分を経て微粒子が生成されるのを抑制したものと考えられる。

3.3.燃料性状と微粒子抑制機構の関係

 図9は、DEC混合割合に対するPM生成量を比較して示したものである。


Fig.9.Relationship between the DEC mixing ratio and quantities of PM for fuels of different properties.


図からDECを混合した際の微粒子抑制特性は、燃料の性状によって異なり、脂肪族の1−へキセン、シクロへシクロヘキサンは、いずれもDECの混合割合の増加に伴い、一旦増加した後減少して行くのに対し、芳香族のベンゼンは混合割合の増加と共に減少していることが分かる。この原因は、脂肪族系の炭化水素は、一旦低沸点炭化水素に分解した後、不飽和の低沸点炭化水素から生成されたベンゼン環が多環化し、PAHを経てPMに至るのに対し、芳香族のベンゼンはほとんど分解されることなくベンゼン環が直接重縮合多環化し、PAHを経てf湖に至ると考えられる。


 すなわち脂肪族系の炭化水素にDECを混合した場合には、熱分解が促進されLHCの生成量が増加するが、混合割合がある程度以上になると酸化反応が進行し、不飽和のLHCが酸化減少することにより、ベンゼン環の生成、ならびにPAH、PMが抑制されるものであり、芳香族炭化水素の場合には、DECの分解成分が側鎖として付加し、アルキルベンゼン類が生成されることが多環化を抑制し、PMの生成量が減少したものと考えられる。

4.結論

1.脂肪族系の炭化水素はDECを混合することで熱分解が促進し、不飽和の低沸点炭化水素が増加するためにベンゼン環が多く生成され、これらの多環化によりPAH、PMの生成が促進されるが、混合割合がある程度以上になると酸化反応が促進し、アセチレンが減少するために、ベンゼン環の生成量が減少し、PMの生成が抑制される。

2.芳香族のベンゼンは、分解されることなく直接重縮合・多環化しPAHを経てPMが生成されるが、DECを混合した場合はDECの熱分解によって生成されるLHCがベンゼン環に側鎖として付加し、アルキルベンゼン類が生成されるため、多環化が抑制されPMが減少する。

参考文献

(1)屋木理志,小川英之ほか,含酸素燃料が黒煙生成機構に関する化学動力学的解析,自動車技術会前刷集 
No.110−0120015487p.7−10
(2)Takaaki Kitamura,Jiro Senda,et.al,DetaiLed Chemical Kinetic Modeling of Diesel Spray Combustion with Oxygenated Fuels,SAE Paper 
2001-01-1262(2001)1-19
(3) Shigeru TOSAKA, Yasuhiro FUJIWARA, The Charactseistics of Chemical Reactionof Diesel Fuel,
JSAE Review21(2000)463−468
(4)TadashiMurayama,ShigeruTosaka,YasuhiroFujiwara,The Properties,Formation,and Oxidation of Soot Particulate in Diesel Engines,ASMEICE−Vol.17Book
No.GOO648(1992)69−76

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